10GbE時代に向けたNAS環境を構築する
時代はテンジー
8年前ぐらいにQNAP社のTS-439 Pro II+を購入してから、ずっとこれで満足してました。しかし、システム領域のFlashが不穏なエラーを吐き出しはじめたのでそろそろ買い替え時かと思い立ちました。容量もそろそろいっぱいになってきましたし。。。
そこで、今回、なるべく安価に10GbEのLAN環境と10GbE対応NASを構築しましたので構成を紹介したいと思います。
もうずいぶん前に「自作PCはやんない!」と心に決めてたんですが(時間がもったいないから)Mellanox InfiniBand ConnectX-5 EDR HCAがほしい!!!!!!!!!!…じゃぁなかった10GbEが欲しいなあとかZFSを使いたいからメモリは最低最悪でも16GBは欲しいなあとか考えてると、QNAPのNASの場合なかなかヘビーなお値段になります。そこでやむなく、パーツを柔軟に取捨選択でき、結果安価に済ませられそうな自作の道をえらびました。
家庭環境のNASで10GbEなぞ必要なのか?と訝しがる人がいるかもしれません。しかし、今どきの高速なNVMe SSD、具体的にはSamsung SSD 970 EVO Plusなどですと、シーケンシャルライトで2.4GB/secぐらいの速度はふつーにでます。RAIDを組めばもっと速度は出るでしょう。これはすでに1Gbpsを優に超える速度です。
NVMe SSDでRAIDを組んだNASというのは、流石に個人ユースではまだちょっとハードルが高いかもですが、HDDのRAIDであったとしても1Gbps以上の書き込み速度は普通にでます。例えば、ZFSでHDD4台のRAIDZ2だと、メモリからのコピーで、350MB/secぐらいの速度はでます。この速度もすでに1Gbpsを上回っています。
つまり、今、広く普及している1GbpsのLAN環境ではストレージへの書き込み速度を十分にカバーできているとは言えません。もはや時代は10GbEです。テンジーの時代なのです。
NASのパーツリスト
Slack上で@yoshikigと喧々諤々の議論の末。以下のパーツセットで行くことにしました
# | 品名 | 商品名 | リンクなど |
---|---|---|---|
1 | ケース | U-NAS NSC-810A Server Chassis | http://www.u-nas.com/xcart/product.php?productid=17640 |
2 | M/B | Supermicro Micro ATXマザーボード X11SSH-TF-O | |
3 | CPU | Intel Xeon E3-1275 v6 3.8 GHz Quad-Core LGA 1151 Processor | |
4 | Memory | ECC U-DIMM(Unbuffered DIMM) Micron DRAM 288pin DDR4-2400 CL17 32GB(16GB x 2) | |
5 | M.2 SSD | Samsung SSD 500GB 970 EVO | |
6 | Power Supply | ザワード [Enhance] FLEX ATX規格電源 [ 80PLUS GOLD認証・最大出力450W ] ENP7145B-07YGF | |
7 | ケーブル | AINEX ATX用電源延長ケーブル [ 15cm ] WAX-2415B-BK | |
8 | ケーブル | サンワサプライ TK-PWSAD2 [シリアルATA電源変換アダプタ 15pinオス→4pinメス] | https://www.yodobashi.com/product/100000001001037761/ |
まずケースを決定。@yoshikigが見つけてきてくれました。U-NAS社のNSC-810A。このケースにはホットスワップできるSATAのHDDスロットが8ポートついています。大きさも家庭に置けるレベルのサイズ感。つや消しのマットブラック塗装が醸し出す高級感。剛性。すべて文句なしです。
次にこのケースに乗るM/Bを決定。SupermicroのX11SSH-TF-Oをチョイス。このM/BにはデフォルトでRJ45の10GbEが2ポートもついてます。また、それとは別に1Gのポートも一個ついてます。そしてなんといってもIPMIが使用できます。これは外せません。
しかし、欠点もあります。使えるCPUは7th/6th GenのCore i3か、Celeron、Pentium、Xeon E3-1200 v6/v5となんだかビミョーなラインナップです。Core i7も動かせるらしいという未確認情報もありますが、試してないのでわかりません。
また M.2 SSDインターフェイスのフォームファクタが2260というこれまたビミョーなIFです。2260のフォームファクタのSSDは選択肢がほとんどなく、あったとしても怪しい無名メーカのものばかりです。さて、ここでカンのいい人は気づいたかもですが、上述のパーツリストにあるSamsung SSD 500GB 970 EVOのフォームファクタは2280です。つまり、このM/Bには乗っけられません。でも、大丈夫です。なんとかなりました。これはあとで解説します。
CPUは無難にXeon E3-1275 v6。まぁこのラインナップのなかだとXeon以外の選択はないかなという感じ。
メモリは32GB積みます。NASにしてはちょっと多めですが、メモリバカ食いのZFSを使用するつもりですので、多いにこしたことはありません。本来であれば、X11SSH-TF-Oがサポートする最大容量である64GBまで入れたかったですが、予算の関係上断念しました。
ちなみにメーカーはArkがやたら推してるSanMaxメモリ。ECC付きにしました。ちなみに、この構成でECCは必須ではありません。このM/BにXeonでもECCなしのメモリで動作します(@yoshikigはこの構成で動かしてます)ECCを外せばもっと安くできます、が、僕は宇宙線が怖いのでECCにしました。ブラックホールも視認できたことですし、ECC付きがよろしいでしょう。
電源のチョイスはよくわかりません。会社の上司が薦めてくれたものをそのまま買いました。80PLUS GOLDなのでいいんじゃないの?よくしらんけど?程度の認識です。
ここで紹介したM/Bとケースと電源の構成ですと、ザワードのATX電源コネクタがM/Bに届かないのでATXの電源延長ケーブル(部品表7)を別途用意する必要があります。また、この電源は4pinのペリフェラル電源が一つしか出てません。U-NAS NSC-810A Server Chassisは外部ファンで一つ、SATAのバックポート電源で一つ。計2つのペリフェラル4pin電源コネクタが必要なので、変換コネクタ(部品表8)が別途一つ必要です
価格
締めて215,563円。HDD抜きでこの価格。QNAP社で同じく8ベイで同じくらいのスペックのモデルを買えば40万円ぐらい(HDD抜きで)します。が、メモリは16GBぐらい。CPUもXeonでー4C8Tでーとかできません。ましてやIMPIなんてついてません。また、ZFS snapshotも使えません(LVMスナップショットは使えますがね)
たしかにリッチなWebUIはついてこないですが、Linuxのオペレーションに十分に慣れた人で、そこの管理コストを負担しても良い人であれば断然安いと言えるでしょう。まあ、簡単な管理WebUIなら自分で書いてもいいですしね。ちなみに、私はZFS snapshotを管理するための超簡単なWebUIをRailsで作りました。
組み立て
粛々と。
上述しましたが、X11SSH-TF-OはM.2のフォームファクタが2260です。一方で購入したSamsung SSD 500GB 970 EVOのフォームファクタは2280です。つまり、ハマりません。じゃあどうするのか?テープで固定します。これで動きます。なにも問題ありません。
ファンはCPU付属のリテールファンでギリギリ収まります。
配線完了。ちなみに、SATAケーブル八本はケースに付属しています。ご丁寧に各ケーブルにラベルまでついてますのでわかりやすいです。M/Bを横切ってる黒いケーブルが上述したATX電源の延長ケーブルです。写真の通り、延長ケーブルがないとM/Bまで電源が届きませんので必須です。
OSのインストール
無難にUbuntu 18.04.2 LTSを選択。何の問題もなくサクッとインストール完了。しかし、インストール後に問題発生。OS起動時に高確率でVGAの出力が死にます。IPMIの画面の方でもブラックアウトしてしまい何も写りません。
これはあくまでVGA出力が死んでるだけです。裏ではOSはちゃんと動いており、つまり、SSHとかsambaとかではつなぐことができます。まあ、NASなので、VGAなんて緊急時以外は使わないわけですが、気持ちが悪いです。どうも、SupermicroのX11SSH-TF-OのVGAは難ありみたいです。ちなみにCentOS 7ではインストールの段階でVGA出力が死んでしまってにっちもさっちもいきませんでした。
とはいえ、VGAが死ぬのはいやなので、なんとかします。どうもVGAが高解像度のモードに切り替わるときに死んでるくさいので、レガシー解像度モードに変更しちゃいます。/etc/default/grub
ファイルをエディタで開いてnomodesetを追記します。
GRUB_CMDLINE_LINUX_DEFAULT="maybe-ubiquity nomodeset"
こんな感じ。あとは
$ sudo update-grub
とやってgrubの設定を変更。これでVGA出力は死ななくなります。
当然VGA出力はレガシーモードになりますので解像度は低くなります。ですが、繰り返しますが、NASなのでVGA出力なんて緊急時以外使いません。すべての操作はSSHでやるわけですからこれで何も問題ありません。
10GbEのLAN環境構築
次に10GbEのLANです。10GbEのスイッチは、まあまだちょっと高いかなあという感じですね。QNAP社のスイッチで5万円ちょっと。NETGEARので6万ちょっと。家庭用のスイッチとしてはちょっと悩む値段です。
ですが、これまた@yoshikigがいいものを見つけてきてくれました。MikroTikのCRS305-1G-4S+IN。アップリンクの1Gポートが一つと、10Gの4つのSFPポートがついたスイッチです。お値段117USD。同じくMikroTik社のS+RJ10モジュールが一個50USDなので、NASとメインマシンをつなげる分でSFPモジュールを2つ買っても合計200USDちょっと。2万円ちょいぐらいですね。送料と関税を入れても、QNAPのスイッチの5万円よりは安くすみます。eurodkで購入。ちなみに日本国内では売ってないです、たぶん。
ちなみに、われわれ以外にも購入して使ってる人がいます。 www.bluecore.net
NASにつなげるメインマシンの方にも10GbEカードが必要です。IntelのEthernet Server Adapter X520-1を購入。これ、正規品を買うと5万円ぐらいしますが、AliExpressで怪しげなOEM品が5000円ぐらい売っています。
1/10の値段なので、パチモンの可能性もあるかなと思ったのですが、購入してみました。
結果、一応Windowsのデバイスマネージャー上ではIntelのEthernet Server Adapter X520-1として認識してますし、ドライバもIntelの公式のものが使えます。また、iperfで負荷を10分間連続してかけ続けてみても、概ね9Gbit/secの速度で通信しつづけてくれます。途中で劇的に速度低下したり落ちたりする様子はありません。スイッチ、NICともに問題ないようです。
計測
iperfで計測
サーバ側
$ iperf -p 4000 -s
クライアント側:
$ iperf.exe -w 10M -p 4000 -c 192.168.1.38
結果は9.00Gbits/sec。十分速度出てますね。ちなみに、Windows版のiperfは
iPerf - Download iPerf3 and original iPerf pre-compiled binaries
を使いましょう。Ubuntu for Linuxのiperfはめっちゃ遅いです。9Gbit/secも出ません。I/Oエミュレーションレイヤーが遅いのかな?なんかWSLはI/O周りが遅い感じがしますよね。とはいえ、上のwindows版のiperfもcygwinのdllが同梱されてるんで…条件はWSLと同じだと思うんですがね…
sambaでの計測
次にsmbdを動かして、10GbEのLANでWindowsからNASに向かってデータをコピーしてみました。smbdのエクスポート領域をNVMeのSSD(Samsung SSD 500GB 970 EVO)でext4にすると
1.05 GB/s。8Gbits/secぐらいでてますね。sambaのプロトコルを噛ましてもこの速度です。これはWindows上でファイルを一度全部読み込んで、オンメモリにした状態でのコピーです(余談ですが、私のWindowsマシンのRAMは128GBまであります)
次に、smbdのエクスポート領域をHDD4台のZFS RAIDZ2にします。
同じくこれはファイルを一度全部読み込んでオンメモリにした状態からのコピーです。281MB/s。ローカルでのddのシーケンシャルライトの速度に肉薄する勢いの速度です。sambaのプロトコルは十分速いですね
ちなみに、S+RJ10モジュール。発熱がすごいです。手で触るとやけどするレベルで熱くなります。さすがに壊れるんじゃないかこれ?と思い@yoshikigが冷却するため5Gや2.5Gにリンクダウンしてみて実験してみましたが、この場合、ジャンボフレームがDisableになります。あまりS+RJ10のSFPモジュールはオススメできないかなという感じです。DACケーブルかファイバーにするべきかもしれません。
雑感
U-NAS社のケースはオススメです。剛性もあり、高級感もあり、細かな点で気が利いていて言うことなし。
SupermicroのX11SSH-TF-Oは5万とちょい高いですけど10GbEが2ポート + 1GbEが1ポート。それにIPMIが使えることを考えれば全然安い気がします。ですが、内蔵VGAの挙動が怪しいですね。。。Ubuntu、CentOSともにVGA出力が高確率で死にます。買うならば、SSH経由で使うのが前提のってことで。割り切ったほうがいいかもしれません
テンジーは素晴らしい。UNICACA AN8599の怪しげなOEM NICはフツーにIntel NICとして使えます。MikroTikのCRS305-1G-4S+INもやすいですがふつうに10GbEとして実用的に使えます。
が。。。上述したとおりS+RJ10のSFPモジュールが尋常ではないぐらい発熱します…触るとやけどするレベルの発熱です。あまりの発熱から、リンクダウンして冷やそうかと思うと今度はジャンボフレームがDisableになります。
いろいろな人の話を聞くと、そもそもRJ45のSFPモジュールなんぞ使うべきではないらしいです。DACケーブルか、ファイバーにするべきだそうです。というわけで次はそれかなあ。